預金データ改ざんから業績が悪化しているTATERU(タテル)に対して、倒産の不安を抱える方は少なくないでしょう。
現在、既存顧客への対応や再発防止策の発表をはじめ、早期退職優遇制度や子会社株の売却など経営陣は様々な対応を行い、経営再建に向けた動きが見られます。
それでも問題や課題が今もなお山積みです。
今回は、TATERU(タテル)が打ち出した早期退職優遇制度や今までの対応を中心に取り上げ、同社が復活を果たせるかどうか考えてみました。
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販管費の削減を狙った早期退職、退職者が注意したい違法行為
TATERU(タテル)は2019年7月5日に早期退職優遇制度の実施を告知しました。
早期退職者を募る理由は、販管費の削減を狙っていると考えられるでしょう。
通常よりも退職金が多い、再就職の斡旋があるなど利点もあるので、早期退職を申し出る従業員が出てくる可能性はあります。
早期退職優遇制度を実施する背景
TATERU(タテル)は改ざん問題が発覚してから既存の顧客への対応を優先しており、新規営業はストップしているので業績を上げられない状態が続いています。
そこで気になるのは、人件費を含む販管費(販売費及び一般管理費)です。
業績を上げられない状況の中、TATERU(タテル)は多くの従業員を抱えています。
有価証券報告書を見てみると、第13期(2018年1月1日~12月31日)のグループ全体での従業員数は505人、そのうち臨時従業員数は70人(年間平均)となっていました。
なお、第12期(2017年1月1日~12月31日)の就業人員は417人で、そのうち臨時従業員数は46人(年間平均)でした。
参考:有価証券報告書-第13期(平成30年1月1日-平成30年12月31日)
参考:有価証券報告書-第12期(平成29年1月1日-平成29年12月31日)
前年と比較すると88人増加していますが、これはIT技術の向上を狙ったエンジニアの増員とRobot Home事業の組織内強化のために増員したようです。
業績が傾いている現在では、販管費の負担はより大きくなっていると想像できます。
そこで、TATERU(タテル)は早期退職優遇制度の実施により販管費の削減を図ろうとしているのでしょう。
早期退職優遇制度でどのくらい負担が減るのか
早期退職優遇制度の概要を見てみると、退職日は2019年10月31日を予定しています。
一部の組織や職務は対象外となりますが、TATERU(タテル)本社と株式会社TABICT、株式会社Robot Home、株式会社TATERU Fundingに在籍する正社員が募集対象です。
では、160人が退職した場合、年間の販管費がどのくらい軽減するのか計算してみました。
有価証券に記載された第13期の平均年収は約719万円でした。
160人×719万円=約11億5,000万円
上記の計算から約11億5,000万円の経費が削減されます。
ただし、早期退職者には特別退職金が支給されるため、特損が計上されることも視野に入れる必要があります。
恐らく、退職金は月収4ヶ月分の可能性があるので、1ヶ月あたりの収入が60万円なら退職金の合計は240万円と想定されるでしょう。
240万円×160人=約3億8,400万円
上記の計算により、特損計上は約3億8,400万円を想定します。
160人分の年収である約11億5,000万円から算出した特損を差し引けば、2019年は約7億6,600万円分の販促費を削減できると考えられるでしょう。
早期退職により特損は発生しても、結果的に減る経費の方が上回るため軽減効果は大きいと言えます。
退職する従業員が気を付けるべき内部告発
企業は重要な機密情報が漏れないように対策を取っていますが、それでも漏れてしまうことがあります。
主に不正アクセスが原因と考えられていますが、実は情報漏えいの大半は内部告発からと言われているのです。
内部告発というと現職の社員というイメージがありますが、実は漏えい問題では中途退職者から漏れるケースが多く、しかも漏えい先のほとんどがライバル会社と言われています。
内部告発で情報が漏れれば企業はイメージダウンとなり、社会的信頼を失ったり、風評被害を受けたりなど大きなダメージを受けることとなります。
元々内部告発は対策が難しく、その上調査にはかなりの時間を要するので非常に厄介です。
その一方で従業員も内部告発をしたことで厳しい処分を受けてしまうことがありますが、目先の利益を優先するので危険な橋でも渡ろうと考える人は少なくありません。
特に退職を予定する人は「どうせ辞めるから」という理由から、安易に不正行為や違法行為をしてしまう傾向があります。
そうなると、企業側は退職者にも警戒をしなければなりません。
例えば、重要な情報にアクセスする権限がある状態では、退職前後に情報を持ち出される危険性があるのでアクセス制限や監視が必要です。
他にも退職後の機密保持契約を結んだり、厳しい罰則を設けたりする対策も求められます。
また、退職予定の従業員も軽率に不正行為を行うことは避けた方が良いでしょう。
内部告発といっても正当性に欠けると違法性が高いと見なされ、法的処置を受ける可能性があります。
機密保持義務違反として多額の損害賠償を求める裁判が行われるケースもあり、裁判所が企業側の正当性を認めれば不利です。
自分に余計な不利益をもたらさないためにも、情報漏えいなどの違法行為は避けるべき行為だと言えます。
TATERU(タテル)も対策を講じた上での実施と想定されますが、一人ひとりがコンプライアンスを意識することが大切です。
改ざん発覚からこれまでにTATERU(タテル)がとった対応を振り返ってみる
TATERU(タテル)は、顧客の預金残高データ改ざん問題を受けて、再発防止策の発表や株主優待の廃止、子会社売却によるキャッシュの確保など行っています。
また、顧客に対してはオーナーへの対応を最優先とし、新規の営業を自粛し、解約を希望する人に対する対応もしっかりと行っています。
続いては、顧客の預金残高改ざん問題に対してTATERU(タテル)がとった対応を振り返ってみることにしましょう。
TATERU(タテル)が発表した再発防止策
TATERU(タテル)は顧客の預金残高改ざん問題に対する再発防止策を発表しました。
まずは、どのような再発防止策を発表したのか振り返っていきます。
TATERU(タテル)が発表した再発防止策の中には、業務フローの改善や内部通報制度の充実、契約適合性手続きの厳格化、業務のモニタリングを行うといったものが挙げられていました。
これらの再発防止策を徹底することができれば、未然に対処できるようになるため、同じような不正を防ぐことにつながります。
失われてしまった信頼をすぐに取り戻すことは難しいですが、きちんと再発防止策を徹底した業務を行っていけば、少しずつ信頼も取り戻せるでしょう。
経営陣の報酬カットや辞任によって責任を負う
特別調査委員会の調査結果を踏まえてTATERU(タテル)は、経営陣の報酬カットや辞任によって責任を負うことも発表しています。
代表取締役は月額報酬の50%カット、専務取締役は月額報酬の30%カット、常務取締役は月額報酬の20%カットを6ヶ月間、常務取締役は月額報酬の10%カットを3ヶ月間、取締役(監査等委員)は月額報酬の10%を3ヶ月分自主返上となっています。
また、常務取締役の中には辞任を発表した人もいます。
TATERU(タテル)の経営陣は顧客の預金残高改ざん問題を受けて、このような責任の負うことにより謝罪の意思を示しているのです。
株主優待の廃止や子会社の売却も行っている
TATERU(タテル)は顧客の預金残高データ改ざん問題を受けて、株主優待の廃止や子会社の売却も行っています。
TATERU(タテル)の株主優待は、100株の保有で3,000円分のクオカードをもらえるというものでした。
そのため、優待目的でTATERU(タテル)株を保有している投資家は大きなダメージを受けることになってしまいました。
また、株主優待の廃止だけではなく、配当予想の修正を行う中で無配の決定も行っています。
株主優待や配当がなくなるということは、業績が危ういことを意味しています。
無配をきっかけに、株価がさらに下がってしまう可能性も否めません。
参考:2019 年 12 月期における配当予想の修正(無配)及び株主優待制度の廃止に関するお知らせ
また、TATERU(タテル)は子会社の売却も行おうと進めていました。
連結子会社だった株式会社インベストオンラインの株式に関して、株式会社ジャパンインベストメントアドバイザーへの譲渡に関する合意が行われたのです。
株式を譲渡したことによって、インベストオンラインは連結の範囲から除外され、約10億円の特別損失が発生することが明らかになっています。
しかし、結局契約は解除され特別損失の発生もなくなりました。
販売用不動産の売却も行っていることから、経営を立て直すための資金繰りに奔走していることが伺えます。
参考:連結子会社の異動(株式譲渡)に関する株式譲渡契約締結に関するお知らせ
(開示事項の中止)連結子会社の異動(株式譲渡)の合意解除に関するお知らせ
顧客の預金残高改ざん問題に対する対応は適切だったのか?
TATERU(タテル)は顧客の預金残高データ改ざん問題を受けて、様々な対応を行っていました。
ステークホルダーの対する様々な配慮をし、問題の終息に努めてきたのです。
オーナーへの対応も優先的に行われ、中には解約を検討したいというオーナーもいましたがそれに対しても会社側は応じる姿勢を見せてきました。
そして、最終的な対応として早期退職優遇制度の実施を決めたのです。
早期退職優遇制度は、業績回復に加えて従業員のライフプランを支援するために行われるものとして実施することが決まっています。
TATERU(タテル)が行ってきた対応の中で、なかなか株価が上がらなかったことや事業への影響が想定よりも大きかったことなどが、人員削減を決める要因になったのではないかと考えられます。
可能であれば人員削減などはしたくないと企業は考えますが、TATERU(タテル)の現状を踏まえて考えてみると、今回の対応は致し方ないことだったと判断できるでしょう。
このような対応をする中で、TATERU(タテル)は事業の再建をしていこうと試みています。
新しい方向性を見出すことができれば、TATERU(タテル)は再建できる可能性が非常に高いと言えるのではないでしょうか?
TATERU(タテル)は、顧客の預金残高改ざん問題を受けて、再発防止策の発表や株主優待の廃止、子会社売却によるキャッシュの確保など様々な対応を行ってきました。
その中で思うような結果が出なかったこともあるでしょう。
そして結果的に人員削減をしなければいけない状況になってしまいました。
これはTATERU(タテル)にとっても不本意な結果だったと考えられますが、これまでのことを振り返ってみると致し方ないことだったと考えられます。
人員削減を行うことによるダメージも小さくはありませんが、これをきっかけに再建へと向かっていくことが期待できるでしょう。
TATERU(タテル)のアパート事業は安定。IoT分野の需要も高まっている
TATERU(タテル)のメインとなっているアパート事業は問題発覚後に低迷するかと思われましたが、現在でも高い入居率を継続しています。
不動産業界に対するネガティブなイメージは拭い去ることができていませんが、マスコミが過剰に報道している部分もあるため、それだけを信じてはいけません。
冷静に物事の本質を見極めることが重要になってきます。
また、TATERU(タテル)の場合はIoT事業も展開しているため、その分野でも需要が高まっていくと考えられます。
最後に、TATERU(タテル)の現状を踏まえながら今後の動きがどうなっていくのか考察していきましょう。
TATERU(タテル)のアパート事業は安定した推移を維持している
アパート事業は、TATERU(タテル)のメイン事業です。
そのため、アパート事業で躓いてしまうと経営に大きな影響が出てしまうのではないかと懸念されていました。
しかし実際は、そのような懸念とは裏腹な結果になっています。
2019年12月期第1四半期決算説明資料によると、2019年3月末時点のアパート入居率は99.2%となっているのです。
99.2%という入居率は、非常に高い数字だと言えるでしょう。
不動産事業の中で大きな問題を起こしてしまったTATERU(タテル)なので、入居者も減少するのではないかと思われていました。
しかし、入居者の減少が見られない結果になっているということは、TATERU(タテル)の対応が良かったのではないかと考えられます。
入居者やオーナーの信頼を失いかけたものの、しっかりとした対策を発表したため、そこまで大きな影響が出なかったのでしょう。
今後営業を再開すれば、新規顧客も一定数入ってくると考えられます。
すぐに営業停止前の水準まで戻すことは難しいですが、これまでの実績があるTATERU(タテル)なので、いずれは営業停止前の水準まで戻っていくことも期待できるでしょう。
不動産業界に対してネガティブなイメージが付けられているが…
不動産業界では、TATERU(タテル)以外にも不祥事を起こした企業がありました。
そのため、不動産業界に対するイメージは以前よりも悪くなっています。
確かに不祥事を起こしてしまった企業にも問題がありますが、マスコミが過剰に騒ぎ立てることで大きな問題へと発展している場合もあります。
マスコミで報じられていることが全てではないため、不祥事の原因はどこなのか冷静に分析することも重要だと言えるでしょう。
マスコミの騒ぎ方に翻弄されることなく問題を俯瞰することができれば、問題の本質はどこにあるのか、オーナーや株主が問題視すべきことは何かを冷静に考えられるようになります。
TATERU(タテル)が手掛けるIoT事業の需要はこれからも高まる
TATERU(タテル)は、アパート事業だけではなくIoT分野に関する事業も行っています。
TATERU(タテル)が手掛けるIoT事業では、IoTでより便利な暮らしを実現するためのApartment kitという賃貸経営プラットフォームを提供しています。
Apartment kitは、IoTを活用することでオーナーや管理会社の業務を一元管理できるシステムを提供できるため、業務の効率化に進められるようになるのです。
また、kit HOME ENTRANCEを活用すれば、マンションや戸建て住宅の安全性も高められます。
kit HOME ENTRANCEは、訪問客があったことをスマートフォンへ通知してくれるだけではなく、外出先からも応答や解錠が可能になるのです。
そのため、急な来客や宅配業者の訪問にも対応できるようになります。
さらに、長期不在や留守中のセキュリティ向上にも役立ちます。
留守中に空き巣に入られてしまう確率は72%にも上るため、万が一の時の防犯対策としても有効だと言えるでしょう。
参考:集合住宅へ安⼼のIoT:「kit HOME ENTRANCE」 | 株式会社ロボットホーム
Apartment kitやkit HOME ENTRANCEなどのIoTを導入したスマートハウスの需要は近年高まりつつあります。
防犯面でも大きな意味を持ち、毎日の生活をより便利にしてくれるため、導入を検討するケースが多くなっているのです。
TATERU(タテル)のアパート事業は、営業停止の措置を受けて低迷すると考えられていましたが、営業停止になっても入居率は高いまま維持できています。
起こしてしまった問題に対してしっかりとした対策を取ることができたため、オーナーや入居者の信頼をそこまで大きく失うことがなかったことも入居率の高さにつながっているのではないでしょうか?
さらに、需要が高まりつつあるIoT事業も手掛けているため、ニーズに合ったサービスの提供ができている会社でもあります。
Apartment kitやkit HOME ENTRANCEなど、独自のIoT機器を提供することでオーナーや管理会社の負担を軽減し、入居者が安心して暮らせるような場を提供しているのです。
そんなTATERU(タテル)のIoT事業は、これから需要がさらに高まっていくと予想されているため、TATERU(タテル)の将来性に期待できると考察できます。